‘’ラブホテル‘’が「2020東京五輪」成功のカギ!?
「ラブホ改装政策」に異議あり!/古谷経衡(著述家)
進化する現代のラブホテル事情
ラブホテルはかつて「連れ込み旅館」などと言われて一般ホテルとは別個の法体系(風営法)が適用されるものであったが、現在ではラブホの業態も多様化が進み、必ずしも男女のカップルが連れ立って入館する場所ではなく、「女子会」「仕事」「終電を逃した漫画喫茶の代わり」など、'''すでにホテルの代替として立派に機能している。'''男性が一人でラブホをホテル代わりに使用する姿は、もはや奇異ではない。
いやむしろ、現在のラブホの進化は、既存の一般ホテルよりも格段に上とみなすべきであろう。例えば都下円山町(渋谷)にある平均的なラブホテルの平日宿泊料金はおおよそ7,000円~10,000円、という処である。
むろん物件にもよるが、'''独立したジャグジー、ダブルベッド、VOD(ビデオオンデマンド)、ウェルカムドリンク(ミネラルウォーターやお茶など2本程度)、化粧水や保湿液、高級シャンプーや入浴剤など各種アメニティはすべてこの料金の中に含まれている'''のが一般的である。
同等の価格で提供されるビジネスホテルには、ラブホテルのサービスには到底及ばないのが自明だ。この価格帯のビジネスホテルは、まず狭いシングルベッドにユニットバスが一般的であり、VODは別途1,000円の追加料金を取られる。更にラブホテルの利点は、チェックアウト時間の遅さである。
都下の一般的なビジネスホテルのチェックアウトはおおよそ午前10時ないし11時であり、1時間延長するごとに1,000円程度の「レイトチェックアウト」料金を徴収される場合が多いが、ラブホテルは場所・物件にもよるが、チェックアウトが午後3時に設定されているものも多数ある。'''夜型、寝坊助にも心配はない。'''
筆者のような完全な夜型人間であれば、朝の6時にラブホにチェックインし、たっぷりと10時間睡眠をとって16時に起床したとしても、「平日サービスタイム」の枠内であり、都下であってもその料金は平日ならばおおむね4,000円~6,000円とリーズナブルである。
ビジネスホテル、シティホテルに同様のサービスを求めた場合2泊することになり、到底割に合わない。'''ラブホテルは現状のままで、十分ホテルの代替として機能しているのである。'''わざわざ「一般ホテル」への改装を促さなくても、そのまま堂々と現状のラブホテルに泊まっていただければよろしい。
新しいビジネスホテルとしてのラブホテルのカタチ
問題なのは、ファミリーの訪日外国人が、ラブホに泊まる場合である。現状のラブホでは、その多くが男女2名をスタンダードとして、女性2名、男性1名、女性1名を想定しているが、男女混交の3名以上が利用する場合は割増料金があるし、加えて18歳未満の子供は利用できないという縛りがある(男性2名の場合は拒否するケースもある)。
しかし、子供連れはともかく、夫婦二人での訪日や18歳以上の子息を含めて3人以上の場合は、2室を用意することによってこの問題をクリアーできる。フロントで2室とって家族間で分ければよいのである。この辺りはホテル側の経営努力も必要であろう。
もはや、ラブホテルは男女の性交渉を目的としたものだけではない。例えば筆者がよく利用する円山町(渋谷)のとあるラブホテルは、'''ビジネスマン対策としてノートパソコンの無料貸し出しサービスが行われており、有線LANが各室に完備されている。'''クラウドサービスに出たを預け、手ぶらでラブホに入り、朝まで仕事をしたあと爆睡、というパターンがありえる。これ以外にも、無線LAN完備のラブホは少なくない。ここまでくると、ビジネスホテルと比較したとき、ラブホが劣後する要素が見当たらない。
外出も自由である。ほとんどのラブホは事前清算か、室内清算であるが、清算さえ済めばフロントにカギを預けて外食や映画を見ることも自在だ。しかし、チェックアウトタイムに関しては一般のホテルよりもはるかに厳格であるから注意を要する。ラブホの延長料金は極めて厳格かつ高額であり、チェックアウトには自己管理が求められる(モーニングコールやアラームを設定しておくとよい。或いは退室時間の前にフロントから連絡がある物件もある)。更に連泊についても、基本的には不可であると考えて差し支えない。
ラブホを使いこなして日本型「おもてなし」の心を
しいてラブホをホテル代わりに利用するときの欠点といえば、一部の高級リゾート型のラブホ以外においてルームサービスにはあまり期待ができないということと、最大のデメリットは予約ができない、ということである。むろんこれも物件によって予約を受け付けているものもあるがまだマイノリティの部類であり、ラブホの空室は常にリアルタイム、出たとこ勝負である。
特に金曜日の夜、土曜日の夜、そして祝前日の夜に「一人ラブホ」を貫徹するとなると、これには独自の嗅覚が必要となる。筆者程度のラブホ上級者であれば、どの物件に空室があるか、割とカンと嗅覚でわかるが、ラブホに精通していない場合は「オール満室」表示のラブホ街を延々と闊歩することになるから注意しなければならない。少なくとも「金・土・祝前」のラブホ街はどこも満室、部屋の取り合いの激戦であるから、行きつけの物件を3~5、用意しておくと良い。
初めて日本人を訪れた訪日外国人には、このような日本のラブホ事情には疎いだろうから、これも業界の努力が必要かもしれない。いずれにせよ、日本のラブホテルは、かつてのラブホテルのイメージを軒並み刷新させている。都心の多くのラブホテルが、内装を近代化し、ビジネスホテルより格段に上のアメニティとサービスにしのぎを削っている。
風営法という法律の制約の中で特異に進化したラブホテルは、日本型「おもてなし」の心の具現化でもある。政府がやるべきことは、ラブホテルの一般ホテル化、の後押しではなく、既存ラブホの魅力の喧伝、発信なのではないか。そろそろ、ラブホテルに関する、卑猥、のネガティブな心象を捨て去るべきである。
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